人気ブログランキング | 話題のタグを見る

カメがウサギにドンブリ勝負

映画 『おみおくりの作法』

『おみおくりの作法』を2月末に観たのですが、じわじわときいてくる映画でありました。
この約2か月、感想を書こう書こうと思いつつ。途中まで書いては下書きに入れ。
途中まで書いては、下書きに入れ。

ようやく書き上がったら、またも長くなっておりました。


あ。

決して、嫌いな映画ではないのです。
ないのですが、全面的に好きか?と言われれば、好きという言葉だけでは語れない
複雑な思いが私の中ではありまして。
ですので、この映画が全面的に好き!という方は、この先の文章を読んでもピンとこない
ことがあるかもしれません。

かといって、この映画が好きな方を批判するとか、そうゆうことでは決してありません。
映画の好み、受け取り方は、本当に個人個人違いますので。

私にとっては、非常に心に残る印象的な映画でありました。
こうして感想を書きたいと思うほどに。
恐らく、自分の現状に設定が近すぎるというのも関係しているかと思われます。
もっと若い頃に観ていたら。もっと年を重ねてから観ていたら。
一体、どんな感想を持つのでしょう。。。


ネタバレしてますので、ご覧になっていない方はご注意ください。


*******************************************************

映画 『おみおくりの作法』_d0075206_10465547.jpg

決して明るい題材でないのは知っておりました。

映画のキャッチコピーが、”人と出会い、死と向き合い、人生は輝きだす”。

主人公はロンドンに住む役所勤務22年、独身、44歳の男性。名前はジョン・メイ。
彼の仕事は民生係。一人で死を迎えられた方の葬儀を行うのに必要な手続きを
すること。

まず、メイが亡くなった方の部屋を訪ね、故人の写真や手紙、お気に入りだったもの等
回収していく場面。
一体、何に使うんだろう??と謎だったのですが。

彼は故人にゆかりのある方々を探すための手がかりを探しており、家族や知人の方々が
いると分かれば連絡を取り、葬儀に出席するか確認。

宗教によって火葬にするか、土葬にするかが違うため、故人の宗教を特定する。

故人がどんな人生を送り、どんなことに興味を持ち、喜びを感じていたのか想いをめぐらせ
お葬式で流す音楽を決めたり、牧師様が読み上げる弔辞を書いていた、と。


主人公のメイが葬儀について電話すると、葬儀費用を請求されるのかと警戒する遺族。
無料だと分かると、葬儀には参列しないという家族がいたり、
娘からのメッセージカードかと思ったら、自分の飼い猫から自分に宛てた自作自演の
カードだったり。。。
誰も葬儀を行う人がいない、ということからして、まぁ何かしら皆さん事情がある訳で。


メイが故人の部屋を訪れると、だいたい皆さん室内に洗濯物が干してあるんですよね。
当たり前なんですが。当たり前な光景なのですが、ヒーターに無造作に引っ掛かってる
靴下だったり、ちゃんと室内干しにかけてあるにしろ、なんかもうその光景が切なくて。
もう誰も着ることのない、誰も取り込んでくれない洗濯物。切ない。


部屋が故人を語る、といいますか。
どうゆう人だったのかが、炙り出される感じだなぁ、と。

って、この文章を書いている自分の部屋を振り返ると・・・。いけない、これではいけない。
メイさんではないけれど、親族の誰かに確実にご迷惑がかかる。
せめて見た目だけでもスッキリさせないと(え?そうゆう問題??)


メイは仕事柄、人は突然亡くなるものだ、ということが身に染みていたからでしょうか。
それとも、自分は独身で、人知れず死んでしまうことがあるかもしれない、と思っていたから
なのでしょうか。
いやいや、横断歩道を渡るときは必ず左右を2回ほど見る、コートは所定の場所にかけ、
職場の机の上では少しでも物が曲がっていると角度を直したり、
自宅の食卓ではお皿やフォークの位置も、きっちり決めている感じだったし。

そもそもの性格からして、きっちりしてるんでしょうね。
非常にメイさんの部屋はシンプルで、整理整頓されておりました。


そんなメイが、突然解雇宣告されてしまうのです。

年下そうにみえる不遜な態度の男性上司から「仕事に時間をかけすぎる。もっと合理的に
仕事を進められたはずだ」と。


最後の仕事は、メイの住むアパートの向かいにあるアパートで亡くなった男性の葬儀。
普段は物静かで歩くテンポすら決めてそうなメイが、この葬儀の件で上司へ
直訴するシーン。
ここで初めてメイが走り、車で出発しようとしていた上司を捕まえるという。
面食らう上司。まさか、そんな主張をしてくるとは思ってなかったでしょうねぇ。

ここから、これまでのメイの人生とは違う、自分から積極的に動いていく感じがしました。

今までのメイの人生は、どちらかといえば与えられたことを一生懸命にこなすことに重きが
置かれていたように私には思えました。
もちろん、それはすごく大切なことだと思います。

ただ、メイは最後の仕事をするにあたり今まで自分のしてきたことが間違っていないことを
証明しようとしていたのかな、と。もちろん、自分の正しさを証明して上司に継続雇用を
訴える!とか、そうゆうものではなく。

自分自身を納得させるため、最後の仕事をいつもとは違う、より積極的な方向でやろうと
思ったのかな、と。


メイは最後にお見送りをする相手、ビリー・ストークのためにアチコチ出かけていきます。
写真から判明したビリーの元職場を訪れ、元妻を訪れ、ビリーの友人たちとも会いに。

そして、ビリーが持っていた写真に写っていた少女、ビリーの娘にも会いに。
その娘さんを演じるのが『ダウントン・アビー』でメイド長役のジョアンヌ・フロガットさん!
いやぁ、一瞬「アンナがいる!」と思ってしまいました。

ま、それはさておき。

メイがビリーの娘・ケリーと出会うシーンがねぇ。
ケリーの職場に訪れ、彼女が仕事をしている姿を見るシーンなのですが、初めてメイが
笑みを浮かべたように見えました。

ケリーは、自分を置いて出て行った父に対し複雑な思いがあるため、葬儀に出ることを
躊躇します。
けれども、メイの思いや行動に心を動かされ父の葬儀に出ることに。


そして、ある日。
メイとケリーは待ち合わせをして、葬儀について打ち合わせをするのです。
お墓の場所について、当日流す音楽について、、、

このお墓。実はメイが自分のために購入しておいた場所。
葬儀屋さんも太鼓判を押すほど(?)良い場所なのですが、それをビリーのために
譲るのです。もちろん、そんなことをわざわざケリーには言わないメイ。

その打ち合わせが終わり、どちらかが電車に乗り、どちらかがホームで見送るシーン。
すみません、どちらが電車に乗っていたか覚えてなくて。

葬儀が終わったら、一緒にお茶を飲もうという約束をするのです。
私は勝手に、あぁ喫茶店でも行って、と思っていたのですが。

その後のシーンで、メイがお店でマグカップを購入するんです2つ。
犬のイラストがついた大きめのマグカップを。
残念ながら犬種は覚えていないんですけど。
保護犬シェルターのような施設で働くケリーが大好きな犬のマグカップ。
あぁ、なるほどメイの自宅に招待するんだな、と。


他にも嬉しそうに買い物をし、帰宅しようとしたメイ。
バスが発車しそうになっているのが見えたので、慌てて走り出すと・・・


突然飛び出したメイは自動車と衝突。


仰向けになったメイ。でもその表情には、微笑みが浮かんでいるのです。
とても安らかな微笑みが。

もしかしたら、劇場で「えっ」と言っていたかもしれません。

そして「なんでそんな展開にしちゃうんだよー。いいじゃないか、ハッピーエンドで!」と
呟いていたかもしれません。


でもねぇ、、、なんとなく、予感はあったんですよねぇ。
それは電車のホームで語らうシーン。

やけに、長かったんですよね。電車が発車するまで。
まぁ、その発車ベルが鳴るまでの時間を持て余すような、ちょっともどかしい感じの、
ほほえましい二人の姿を描いているとも取れますが。

なんか、こう、暗示するような、というか。


そして場面は、ビリーの葬儀当日へ。

ケリーは、周囲を見渡してメイの姿を探しています。
ビリーの葬儀には、メイの働きかけのおかげで沢山の人々が参列しています。


そこへ通りかかる、1台の霊柩車。

参列者はなく、棺をお墓に埋める人が付き添っているのみ。
なんと、メイの葬儀も同時刻に行われるたという。

この対比がね。

この対比がね。まあ、切ない、切ない。

仕事とはいえ、人様のために仕事して。
メイが仕事しなければ、参列者もいなかったであろうビリーの葬儀には
大勢の人がいて。

でも、メイには誰もいない。
メイのような民生係がいれば、その人が立ち会っていたんだろうけれど。
メイの仕事を引き継いだ、あの仕事が乱暴な女性がいないことが、せめてもの
慰めでしょうか。

あぁ、でも一体全体メイの部屋を片付けたのは誰だったんだろうか。
いや、生前お墓まで購入していた彼だもの。
ちゃんと遺言を作成してあって、それを誰かが、遠い親戚とかが実行してくれたのかもしれない。

お願いだから、メイの仕事を引き継いだ、あの仕事が乱暴な女性じゃないことを祈りたい。
そんなシーンがあったら、劇場飛び出していたかもしれないけれど。
と、映画にないシーンでモヤモヤする私。


ビリーの葬儀が終わり、悲しみの中にも新たな出会いを果たしたビリーの元妻家族とケリー、
ビリーの親友、同僚たちが帰っていきます。

そして、誰もいなくなった墓地。


今までメイが弔った人たちの姿が現れるのです。
続々とメイのお墓の周りに集まる人たち。
あぁ、こんなにも大勢の人をメイはおみおくりしてきたんだな、と。


もし、メイが最後の仕事をいつも通りの手順で行っていたら?

もし、メイが、いつも慎重に慎重に横断歩道を渡っていたメイが、いつも通りに横断歩道を
横断していたら?

おそらく、彼は死ぬことはなかったんじゃないか、と。

彼は、自分の生き方を変えたことで喜びもあったけれど、死ぬ時期を早めてしまったのでは
ないだろうか?と。

でも。

彼は微笑みながら、満足しながら、この世を去って行った。
自分のしてきたことが故人と誰かを再び結び付けられることが分かり、無駄ではなかった
ことを確信できた喜びと誇りを胸に。


もし、メイが最後の仕事をいつも通りの手順で行っていたら、ケリーに出会うこともなく、
そしていつか静かに息を引き取る時がきて。
その時、メイの葬儀の様子は映画のラストシーンと変わらないかもしれない。
変わらないかもしれないけれど、本人の人生への満足感は全く違っている訳で。


あああ、それでもハッピーエンドで終わって欲しかったなぁ。
いや、あの結末だからこそラストシーンがさらに引き立つのは分かっているんですが。
分かっているんですが、私には切なすぎて。


しばらく、この映画から気持ちが抜けませんでした。
あぁ、自分も一人で・・・とか、色々とですね、はい。

そして、その後は観る映画観る映画、ラストシーンが近づくとドキドキしてしまう現象が。
なんというか、ラストシーン恐怖症とでも申しましょうか。
「どうしよう、またあんな衝撃を味わってしまったら」と。小心者して。
いえ、『おみおくりの作法』が悪いわけはないのですが。

まぁ、そんな訳で仕事について、生き方について色々と考えさせられる映画でありました。



by yui_usakame | 2015-05-03 17:38 | CD・DVD・映画

のんびり、のびのび、書きたいときは沢山書く。書かないときは、何か月も書かない。そんな、ぐーたらブログです。
by yui_usakame
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

検索

4本目を育成中です☆

  • このブログに掲載されている写真・文章などの 無断使用はご遠慮ください。